資本主義のてっぺんらへん
ネットビジネスはパソコン一台あればできる仕事だから、
ネット環境さえ繋がっていれば、住む場所はどこでも自由だ。
僕は一度東京というところに住んでみたかった。
20年間山陰の田舎からほとんど出たことがなかった僕にとって、
東京はテレビや映画の中にだけでてくるおとぎの国だった。
生まれて初めて東京に出たときの衝撃はいまだに脳裏に焼き付いている。
数分おきにやってくる電車も、
消えることのない人身事故の表示も、
見上げるだけで首が痛くなるビル群も、
Suicaをかざせば落っこちてくるジュースも、
サラリーマンたちのロケットのような歩行スピードも、
街中にあふれる商品の多様さも、
お祭りのような人口密度も、
公園でゴロゴロしている浮浪者たちも、
何もかもが驚異だった。
僕は最初、ただ呆然として高層ビル群を眺め、
ついで高揚し、好奇心の赴くままに都会の新しさの中を駆け巡り、
新宿駅で当然のように迷子になった。
地元に戻った後も興奮はなかなか醒めなかった。
4階建て以上の建物がほぼ存在しない田舎で、
僕が両親・飼い犬と土臭い閉じた生活を送っている間、
東京人は毎日あんな遊園地みたいな場所で、
お洒落で優雅で文明的な日々を謳歌しているのか…?
なんだか知らないうちに楽しいパーティが開かれていて、
自分だけ誘われていないのを知ったかのような淋しさがあった。
それ以来僕はすっかり田舎コンプレックスになり、
自由に住む場所を選んでいいとなれば、
もう東京以外の選択肢が全然浮かばない状態だった。
お金と時間を手に入れてからは、しょっちゅう東京へ遊びにいった。
そのころ東京の知り合いの起業家に、
六本木ヒルズ最上階で開かれるというとあるパーティに誘われた。
僕は面白そうだから行きますと言いながら、
『六本木ヒルズとはいったい何だろう、何か建物の名前らしいが?』
などと内心首をかしげていた。
当日、同じパーティに誘われた人たちと合流し、迎えの車に乗って、
一際大きくてキラキラ眩しいビルの前で下車した。
どうやら六本木ヒルズとは、社長や芸能人などの金持ちが
たくさん住んでいる建物らしかった。
映画館やら美術館やらが隣にあるなんて贅沢だなぁと思った。
警備員の立つ入口をくぐり、エレベーターに乗って
最上階の吹き抜けのパーティルームに入った。
すでにたくさんの参加者が集まっていて、
めいめい料理をつついたり、グラスを持ったまま会話をしたりしていた。
一面ガラスの粉をぶちまけたような夜景が眩しかった。
僕はいつもの地味で平凡な服装だったが、
大半の人たちはスーツやドレスなどのフォーマルな格好をし、
腕時計をキラキラさせたり、イヤリングやネックレスをブラブラさせたりしていた。
メルマガなどで名前を聞いたことがある業界の有名人もたくさんいた。
20代くらいの若い人も多かった。
何をどうしたらいいか分からず僕がまごついていると、
自称ギャル男だという、ホストみたいな恰好と髪型をした男が気さくに話しかけてきた。
ちょっと話を聞いてみたら年商10億円くらいの社長だった。
僕はいきなりラスボスに襲われた気分で、挨拶もそこそこに退散した。
当時僕はまだ学生だったし、たった一人でビジネスをしてきたので、
ビジネスマナーなど何も知らず、名刺も持っていなかった。
(今も名刺は面倒なので持ち歩かないが)
さらに生来人見知りの性格だったので、
群れを成す社長たちに自分から話しかける勇気も出ず、
隅っこの開いている席を見つけて、
ちびちびとお酒を飲んだり、料理をつまんだりしていた。
「次回のプロモーションには5000万円くらいの広告費をかける予定だ」
「どこどこの株が買い時」
「バリのプール付き別荘が安い」
「あそこにいる秘書は社長の愛人だから」
「経営者しか相手にしない霊媒師が沖縄にいて、癌すら直せるらしい」
耳をそばだてていると、色んな会話が耳に入ってきた。
みんな楽しそうにお金とかビジネスの話をしていた。
周囲にいる人々と夜景を交互に見ながら、
これが資本主義のてっぺんらへんかぁ、と思った。
1年前まで時給700円で皿洗いやレジ打ちをし、
この身の自由ばかりを夢見て走ってきた僕にとっては、
なんだか色々と過剰だった。
パーティが終わって帰宅する途中、
六本木ヒルズに住んだり、事務所を構えたりすることが、
起業家にとって一種のステータスになるのだと同行者に聞いた。
なるほど、あの建物は資本主義社会で成功を夢見る人々にとっての
神殿のようなものなのだと僕は理解した。
ああやって夜な夜な、日本中からお金をもった人たちが
首都の夜景を見下ろすために集まってくる。
なんだか光に群がる蛾みたいだなと思った。
・はじめに
・第1部「僕の人生から就職が消えた」
・第2部「月収200万円の憂鬱」
・第3部「起業に興味のない起業家」
・第4部「燃え上がる家、没落の父」
・第5部「麗しき労働の日々」
・第6部「地獄のような労働との遭遇」
・第7部「労働、この恐るべきもの」
・第8部「システムの隅っこにあいた風穴」
・第9部「僕はアフィリエイトで生きていこうと思った」
・第10部「100万円という札束」
・第11部「資本主義のてっぺんらへん」
・第12部「香港旅行中にサラリーマンの年収分稼ぐ」
・第13部「手に入れた自由な人生」
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