僕の人生から就職が消えた
子供の頃、自分は将来会社員か公務員になるのだと確信していた。
それは僕の中で、太陽が東から昇って西へ沈むのと同じくらい自然なことだった。
高校までは比較的真面目な子供だった。
先生たちの善良さ、聡明さを疑わなかったので、
彼らの言う通り、一生懸命いい子になろうとした。
テストでいい点をとって誉められると純粋に嬉しかった。
学年で3位になったこともあった。
皆の前で誉められると優越感で鼻がむずむず動いた。
ルールには厳格に従った。
服の裾をはみ出させることすら躊躇する中学生だった。
たとえ監視のない場所でも、目には見えないものからの処罰を恐れた。
いつも怒られている不良たちをバカだなぁと思っていた。
でも彼らに対する劣等感はいつもあった。
毎日12時には寝て、7時すぎには起きた。
当然モテなかった。
親や教師が大学に行けと言ったから、そうすることにした。
普通に受験勉強をして、普通に進学校に合格した。
その頃テレビゲームやオンラインゲームにハマっていた。
毎日猿のようにゲームをやった。
部活にも入らず、学校が終わると飛んで帰ってパソコンの前に座った。
架空のモンスターを倒してウキョウキョ喜んでいた。
高校時代は風のように過ぎた。
特別なりたいものなどなかった。
将来は漠然としていた。
しかし「安定」の大切さだけは耳にタコができるほど聞かされていた。
親戚には公務員が多く、警官や消防士や市役所職員や学校の校長なんかがいた。
誰かが公務員になったというと親戚中が祝った。
なるほどどうやら公務員とは勝利であるらしいと悟った。
ゲームのしすぎであまり成績は良くなかった。
貧乏だったので、実家から通える地元の大学に進学した。
就職率がもっともよいという、ただそれだけのことで学部を選んだ。
そこで初めて僕は青春をした。
腹を割って話せる友達ができたし、サークル活動にも没頭したし、
勉強の楽しさも知ったし、恋人もできた。
ゲームは自然としなくなった。
そして働くということを知った。
いわゆるブラック企業で、お金のために毎日深夜まで単純労働をした。
社員達は働いて、ご飯を食べて、寝るだけの家畜と変わらない日々を送っていた。
愚痴と冗談と猥談を口ずさみながら、来る日も来る日も朝から晩まで同じ動作をループしていた。
彼らの生活の大部分は狭い店のルーチンワークに消えた。
僕は未来に横たわる約40年間の労働を思って心底恐怖した。
終身刑だと思った。
大学に入ってようやく手に入れたものを、根こそぎ奪われる気がした。
大学3回生の後半になると、学生たちの話題は徐々に就職活動一色になった。
エントリーシート…合同企業説明会…リクナビ…面接…SPI…企業研究…
スーツ姿が内定目指して一斉に同じ方向へ雪崩をうつ中、
僕は真っ青になりながら全速力で反対の方角へ逃走した。
就職関連のイベントはことごとく無視した。
好きだった小説で飯を食っていこうと思った。
授業にはあまり出なくなった。
当然、周囲からの就職への圧力は凄まじいものがあった。
親や親戚や友人や彼女や教授たちからみれば、僕は堕落してしまったのだった。
全方位から攻め立てられて、大学4回生の夏、ようやく重い腰をあげた。
リクナビに登録してみたが、もはや誰からも見向きされない、
スーパーの売れ残り食材のような会社しか求人がなかった。
2社受けてみたが、1社目は落ち、2社目は最終面接をボイコットした。
僕は黙々と時給700円の単純労働を繰り返した。
投稿した小説はあっさり一次審査で落ちた。
裁判所から財産差し押さえ通告が来た。
僕の人生は晩年にさしかかっているのではないかと思った。
とにかく金が必要だった。
ネットでたまたま知ったせどりを試してみた。
3ヶ月でバイト先の店長の給料を超えた。
僕は面食らった。
次にアフィリエイトを試してみた。
4ヶ月後に月収100万超えた。
ネットビジネスを始めて1年も経たないうちに、
信じていた世界が根底から崩壊した。
節税のために法人化した頃には、誰も就職しろと言わなくなっていた。
僕の人生から就職が消えた。
スーツとネクタイが消えた。
時計が消えた。
土日が消えた。
祝日が消えた。
通勤が消えた。
時給が消えた。
上司が消えた。
残業が消えた。
秩序が消えた。
無理に大学に通う必要もなくなった。
気付けば色々な義務がなくなっていた。
時間とお金だけが手元にあった。
カレンダーはどこまでも白紙だった。
それまで熱心にたどってきたレールが突然途絶えて、
前後左右どこを見ても茫漠とした地平線が広がっていた。
毎日起きたら「今日は何をしよう」と考えるところからスタートだった。
あるとき観光地の温泉に入った。
平日の昼間は老人しかいなかった。
老人たちにまぎれて独り体を洗った。
脱衣場にテレビがあったので、
風呂上りに扇風機に当たりながらなんとなく見ていた。
経済のニュースだった。
長引く不況に対してサラリーマンたちが怒っていた。
「リストラされた」
「給料が上がらない」
「ボーナスカット」
「小遣いが減った」
「就職率が低下」
僕はそれまでそういうニュースに興味をもっていたはずだった。
しかしそのときは、彼らが何か別の宇宙の話をしているのではないかと疑った。
それらは僕にとってあまりにも無縁な言葉たちだった。
埼玉の友人を訪ねたとき、朝の電車に乗った。
電車はサラリーマンや学生でごった返していた。
会社や学校に向かう人たちの群れを、僕は座ったまま口を開けて眺めていた。
彼らは猛烈な勢いで電車に飲み込まれたり、吐き出されたりしていた。
あれほど嫌悪していたスーツとネクタイに対して、
ほとんど何も感じなくなっていることに気づいた。
地球の反対側の知らない国に住む人たちを見るような目で彼らを見た。
ある日、朝のテレビの占いで「今日も元気に出勤しましょう」と明るく言われたとき、
僕は彼らの社会からすっかり弾き出されていることを知った。
これからは一人で生きていかなければならないぞ、と改めて思った。
・はじめに
・第1部「僕の人生から就職が消えた」
・第2部「月収200万円の憂鬱」
・第3部「起業に興味のない起業家」
・第4部「燃え上がる家、没落の父」
・第5部「麗しき労働の日々」
・第6部「地獄のような労働との遭遇」
・第7部「労働、この恐るべきもの」
・第8部「システムの隅っこにあいた風穴」
・第9部「僕はアフィリエイトで生きていこうと思った」
・第10部「100万円という札束」
・第11部「資本主義のてっぺんらへん」
・第12部「香港旅行中にサラリーマンの年収分稼ぐ」
・第13部「手に入れた自由な人生」
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